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大阪地方裁判所 昭和58年(ワ)3980号 判決

一 請求原因1の事実(原告が本件意匠権を有すること)は当事者間に争いがない。

二1 成立に争いのない甲第二号証(本件意匠の意匠公報、別添意匠公報に同じ)によれば、本件意匠は次の構成を有することが認められる。

(一) 周面の内外に多数の襞を表わした逆円錐台状の受皿部と透明な円錐台状の蓋部とを鍔部を介して密設したものである。

(二) 密設部の直径を一とすれば、底部直径約〇・七九、全体の高さ〇・五、受皿部の高さを一とすれば蓋部のそれは一・二の比率である。

(三) 右受皿部は、

(イ) 周面の内外は、底部に接する部分が<省略>の形をした細い縦襞を等間隔に規則正しく多数連設し

(ロ) 底部には底部外周のやや内側に二重線の大リングを一個、中央には底部直径の約二分の一の直径の二重線の小リング一個を同心円状に表わし、その二個のリング間を七本の放射状直線でつなぎ、

(ハ) 更に上縁には鍔部を設けている(なお、鍔部の模様は明確でない)。

(四) 蓋部は、密設部直径が受皿部のそれと等しく、上縁の角を角丸状とし、無模様で、下縁部に鍔部を設けている。

2 本件意匠の要部について考えるに、登録意匠の要部を把握するにあたつて、当該登録意匠出願前にその分野に属する公知意匠が存した場合には、これを参酌してその要部を決定すべきものであるところ、成立に争いのない乙第一号証の一、同号証の二の一ないし三、同二号証の一ないし三の各一、二、同三号証の一の一ないし三、同号証の二ないし七の各一、二、同号証の八の一ないし三、同号証の九の一、二、同四号証の一ないし三、同五号証の一ないし三によれば、包装用さらに関して次の意匠が本件意匠出願前公知であつたと認められる。

(一) 周面の内外に多数の襞を表わした逆円錐台状の受皿部と透明な円錐台状の蓋部とを鍔部を介して密設したこと。

(二) 正確な比率は必ずしも明確ではないが、全体の高さが低いもの、高いもの、また受皿部の高さより蓋部の高さが高いもの、低いものといつた種々の比率。

(三) 受皿部の周面の内外に縦襞を不規則に多数連設していること。

(四) 受皿部の底部にリングの模様及び右リングから放射状直線を設けたこと。

(五) 受皿部の上縁に鍔部を設けたこと。

(六) 蓋部は、密設部直径が受皿部のそれと等しく、上縁の角は角ばつており、側壁周面には外方へ膨出する突条が多数設けられ、下縁部には鍔部が設けられていること。

そこで、本件意匠の要部をみるに、本件意匠の要部を「周面内外に多数の襞を表わした逆円錐台状の受皿部と透明な円錐台状の蓋部とを鍔部を介して密設した」という基本構成(構成(一))にあると断ずることは、前記の公知意匠がすでに存したことに照らし困難であり、また構成(二)の密設部の直径と底部直径、全体高の比、受皿部と蓋部と

の高さの比率には種々のものが存したこと、構成(三)(ロ)の受皿部底部に二個の同心円上のリングを配すること、同(ハ)の受皿部上縁に鍔部を設けること、構成(四)の蓋部の密設部が受皿部のそれと同一径で下縁部に鍔部のあることはいずれも既に出願前公知であつたといいうるので、結局本件意匠の要部は、構成(二)においてその特定の比率を採つたこと並びに前記公知意匠にはなく新規であり、したがつて看者の注意を強く引く、受皿部の周面内外に底部に接する部分が<省略>の形をした細い縦襞を等間隔で規則正しく多数連設する(構成(三)(イ))、蓋部の上縁角が角丸状で無模様である(同(四))といつたかなり細部にわたる外観に求めるほかない。

三 被告が包装用さら(ただし原告主張の説明及び図面については争いがある)を業として製造販売していること

は当事者間に争いがない。

そして、イ号物件であることにつき争いのない検甲第一号証によれば、イ号意匠は次の構成を有することが認められる。

(一)´ 周面の内外に多数の襞を表わした逆円錐台状の受皿部1(原告主張のイ号図面による、以下同じ)と、透明な円錐台状の蓋部2とを両者の鍔部を介して密設したものである。

(二)´ 密設部直径を一とすると底部直径〇・八、全体の高さ〇・三二で、受皿部の高さを一とすると蓋部の高さ(ただし鍔部からの立上り部分)は〇・四八の比率である。

(三)´ 右の受皿部1は、

(イ)´ 側壁の全周面内外には底部に近接する部分において先端が尖状で凸状(裏面は凹状)の細い縦襞を不規則に多数連設し、

(ロ)´ 底部には底角(かど)の丸みを含んで曲成された大リング6と、内径が底部直径の約二分の一の三重線の小リング7が同心円状に曲成されており、小リング7を含んで底部中央8はほぼ円錐台形に極く低く盛上つている。

(ハ)´ 側壁上部は外方へ開いて小巾の鍔部4となり、この鍔部4の周囲は一旦僅かに立上つて巻込み縁5の密設部となつており、これら鍔部4と巻込み縁5には凸凹の細い襞群が側壁周面よりも細い状態で連設されている。

(四)´ 蓋部2は密設部直径が受皿部のそれと等しく、上縁部が角ばつており、側壁周面には縦方向で外方へ膨出する突条9が等間隔に四〇個曲成され、側壁下部は外方へ開いて小巾の鍔部10となり、これに続いて短筒部11が下降し、短筒部11には円周方向に内方へ膨出する横突条12が曲成されている。更に、円形頂板部13には内径が頂板部外径の約五分の四のリング凹条14が曲成されている。

四 そこでイ号意匠を本件意匠と対比してみるに、本件意匠の要部は前判示のとおりであり、かかる点について(一)本件意匠の密設部の直径と底部直径及び全体の高さとの比、受皿部と蓋部との高さの比率が構成(二)のとおりであることにより全体としてずんぐりむつくり型(公報の平面図、底面図、左右側面図、A―A断面図参照)として観得し得るのに対し、イ号意匠のそれは前記(二)´の比率であることにより全体としてかなり平盤で横に長い型(原告主張のイ号図面底面図、左側面図、A―A断面図参照)として観得できる違いがあり、(二)本件意匠の受皿部の縦襞は底部に接する先端が<省略>字状をし等間隔で規則正しい(構成(三)(イ))のに対し、イ号意匠のそれは先端が尖状で凸状をしており不規則であり(構成(三)´(イ)´)、(三)本件意匠の蓋部は上縁角が角丸状で無模様である(構成(四))のに対し、イ号意匠の蓋部は上縁角が角ばつており側壁周面には縦方向で外方へ膨出する突条が等間隔に四〇個曲成されており(構成(四)´)、両者は要部において相違していることが明らかであり、(四)更に両意匠を全体的に観察すると、本件意匠が蓋部の角丸状の形状と無模様及び受皿部の先端が<省略>字状で規則正しく連設された縦襞のコントラストによりやわらかで端正な感じを与えるのに対し、イ号意匠は、蓋部の上縁の角ばつた形状と規則的な多数の突状及び受皿部の先端が尖状で凸状をし、不規則に連設された縦襞によりはなやいだ感じを与え、以上を総合すると両者は結局その美感を異にすると評価するのが相当である。

したがつて、イ号意匠は、本件意匠に類似しないというべきである。

五 以上のとおりであるから、被告がイ号物件を業として製造販売することは本件意匠権を侵害するものではなく、右侵害を前提とする原告の本訴請求はすべて理由がない。

よつて、原告の本訴請求をいずれも失当として棄却する。

〔編註〕 本件における請求原因は左のとおりである。

1 原告は次の意匠権(以下「本件意匠権」といい、その意匠を「本件意匠」という)を有する。

出願      昭和四三年二月八日(意願昭四三―三四五九)

登録      昭和四六年八月一三日(第三三六三七二号)

意匠に係る物品 包装用さら

登録意匠    別紙意匠公報の記載のとおり

2 本件意匠の構成は次のとおりである。

(一) 周面に多数の襞を表わした逆円錐台状の受皿部と角丸で透明な円錐台状の蓋部とを鍔部を介して密設したものである。

(二) 右の受皿部は、

(イ) 密設部直径一、底部直径約〇・八二、高さ約〇・五三の比率で、

(ロ) 周面の高さ一杯に先端がU字形になつた細い縦襞を多数本連設し、

(ハ) 底部にはやや内側に大リングを一個、中央には底部直径の約二分の一直径の小リング一個を同心状に表わし、その二個のリング間を七本の放射状直線でつなぎ、

(ニ) 更に、密設部の受皿部との境の周縁には鍔部を設けた態様である。

(三) 蓋部は、密設部直径が受皿部と等しく、高さはやや高く、角をやや大きめのアールで角丸状とした態様であるる。

3 被告は、昭和四八年七月初め頃から別紙記載の包装用さら(以下「イ号物件」という)を業として製造し、販売している。

4 イ号物件の意匠(以下「イ号意匠」という)の構成は次のとおりである。

(一)´ 周面に多数の襞を表わした逆円錐台状の受皿部1と、透明な円錐台状の蓋部2とを、両者の鍔部を介して密設したものである。

(二)´ 右の受皿部1は、

(イ)´ 密設部直径一、底部直径〇・八、高さ約〇・一五の比率で、

(ロ)´ 側壁の全周面には先端がU字形(ないしV字形)に分かれた細い縦襞3が縁内へ突出する状態で多数本連設され、この縦襞の間には、底部かどから上方へ至る逆Y字形(ないし△形)の浅い襞3´が縁内へ突出する状態で連設され、全体として多数の襞となつている。

(ハ)´ 底部には底角(かど)の丸みを含んで曲成された大リング6と、内径が底部直径の約二分の一の三重線の小リング7が同心円状に曲成されており、小リング7を含んで底部中央8はほぼ円錐台形に極く低く盛上つている。

(ニ)´ 側壁上部は外方へ開いて小巾の鍔部4となり、この鍔部4の周囲は一旦僅かに立上つて巻込み縁5の密設部となつており、これら鍔部4と巻込み縁5にはU字形(ないしV字形)の襞群が放射状に側壁周面よりも細い状態で連設されている。

(三)´ 蓋部2は密設部直径及び高さが受皿部1とほぼ等しく、側壁周面には縦方向で外方へ膨出する突条9が等間隔に四〇個曲成され、側壁下部は外方へ開いて小巾の鍔部10となり、これに続いて短筒部11が下降し、短筒部11には円周方向に内方へ膨出する横突条12が曲成されている。更に、円形頂板部13には内径が頂板部外径の約五分の四のリング凹条14が曲成されている。

5 イ号意匠は本件意匠の類似範囲に属する。すなわち、

(一) 両者は、まず、周面に多数の襞を表わした逆円錐台状の受皿部と、透明なほぼ円錐台状の蓋部を鍔部を介して

密設したという基本構成において酷似している。

(二)(イ) 両者は受皿部の周面の高さ一杯に多数設けられた先端がU字形になつた細い縦襞にしている点において共通であり、

(ロ) また、両者の底部に表わされた二個の同心円状のリングにも共通点が認められる。

(三) 一方、両意匠の間には、受皿部底部の放射状直線の有無、蓋部における段部の有無などにおいて相違点が認められる。

(四) しかしながら、(一)の基本形状の酷似、(二)の縦襞の形状と態様を中心とした意匠的まとまりは強く看者の注意を惹くものであり、(三)の差異は視覚的な両者の相違感をもたらす程顕著なものではなく、部分的な相違にすぎない。

6 被告は、昭和四八年七月から同五八年六月三〇日まで、イ号物件の製造販売が本件意匠権を侵害するものであることを知り、又は過失により知らないで、合計三〇〇〇万円の売上をあげ、その実施料相当額は九〇〇万円が相当であり、したがつて、原告は同額の損害を蒙つたものといえる。

よつて、原告は被告に対し、本件意匠権に基づき、イ号物件の製造販売の差止、イ号物件の廃棄並びに損害金九〇〇万円及びこれに対する本件訴状送達の日の翌日である昭和五八年六月二一日から支払済に至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

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